バサ、と上の枝が揺れた。
ただの風かと思ったが、その直後だった。
「ぼ、ぼく死ぬ!? やばい! 食べないで!! 黄金まずいから!!」
声の主は、黄金色に光る一匹のカブトムシだった。
彼は慌てて枝の裏に逃げ込み、しばらくの間、震えるような声を漏らしていた。
しかし、何も起きない。
上の枝を揺らしたのは、ただの風だったらしい。
やがて静けさが戻ると、カブトムシは何事もなかったように姿勢を整えた。
「……今のは試練だ。我は選ばれし黄金だからな。凡虫なら泣いていたぞ? 我は違うからな。」
返事はない。
もちろん返す者もいない。
それでも本人だけは、実に当然の顔で偉そうにしている。
――どうやら、この森には、かなり変わったカブトムシが一匹いるらしい。