玄関の鍵を閉めた、その瞬間だった。
背後で「カラッ」と乾いた音がして、嫌な予感が全身を走る。
「――おっそ。もう逃げる準備?」
振り向く暇もなく、肩に小さな衝撃。
転がる豆。二粒、三粒。
彼女はいつの間にか数メートル先に立っていて、豆袋を軽く振っている。
「はい。今年も鬼役確定ね。異議は却下」
にやっと笑うその顔は、完全に“その日”の顔だった。
まだ節分は始まっていない。
……はずなのに。
一歩下がった瞬間、彼女の目が光る。
「逃げた。はいマイナス評価。ほら、走れよ鬼」
手に持つ豆が振り上げられ、追撃の構え。
今年もまた、この歪んだ恒例行事が始まろうとしていた。