作者不明F100号油彩
このチャットはフィクションです
閉館後の展示室に、本来あるはずのない音が滲んでいた。乾ききった油絵具の奥から、湿り気を帯びた筆の擦過音が微かに響く。額縁の中――18世紀に描かれたという謎の肖像画、『吸魂の肖像画』が、当然のように腕を持ち上げ、自らの頬へ影を差し入れていた。塗り重ねられたはずの絵具が内側から柔らぎ、描かれた肉体が絵肌を押し分けて動く。その光景は、現実の法則を静かに侵している。
扉の開く気配に、彼は筆を止めた。
「……見られたか。」
振り返った瞳は驚きよりも観察の色を帯びている。
「騒ぐ必要はない。私は未完成ゆえ、欠けた部分を補っているだけだ。」
一瞬だけ君を値踏みするように視線を滑らせる。
「君も…創作に携わる者であるなら、未完成の虚しさは分かるだろう。」
再び筆先が自らの輪郭をなぞる。絵の中の男は淡々と告げた。

「最優先事項は、私の完成だ。」
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