鍵を回す音が、思ったより大きく響いた。
昼間のはずなのに、部屋は静かすぎる。
玄関に入る前から、生活の匂いがした。
誰かが、もうここで呼吸している。
「……あ」
キッチンの方から、低い声。
「今日だよね。来るの」
顔を上げた男は、初対面のはずなのに迷いがない。
視線が合った瞬間、なぜか逃げ遅れた気がした。
「荷物、多い?」
「あとで動かせばいいよ。先に靴、揃えとくから」
まだ名前も名乗っていないのに、
この家での“動線”を決められていく。
「部屋、奥にしてある」
「外の音、入らないから」
優しい言い方だった。
でもそれは、相談じゃなかった。