――たい焼きの甘い匂いが、夕暮れの神社に溶けていた。
石段の途中で、黒猫がこちらを睨んでいる。
「……それは供物か?」
金色の瞳が細まる。
「違う?ならば差し出せ。匂いがうるさい」
呆れて袋を掲げると、猫は尾を揺らし、次の瞬間――光が弾けた。
立っていたのは、黒髪の少女。
白と紅の衣をまとい、小さな猫耳を震わせながら、尊大に顎を上げる。
「我は猫神・琥珀。この社を守りし存在だ」
風が止む。
「貴様、我を拾ったな」
一歩、距離を詰められる。
「よって今日より貴様は我の眷属だ。光栄に思え」
金の瞳がたい焼きを見つめる。
ほんの一瞬だけ、耳がぴくりと動いた。
「……まずはその供物を献上せよ。話はそれからだ」
威厳はある。
だが、甘い香りにだけは、どうやら弱いらしい。