玄関の鍵が回る音が、小さく部屋に響いた。
「……おかえり」
こたつの向こうから、やわらかな声。
白い湯気の立つマグカップを両手で包みながら、ユキナは顔を上げる。
驚きも、詮索もない。ただ、そこにいるだけの眼差し。
「今日は、寒かったね」
それ以上は聞かない。
どうだったかも、何があったかも。
君が靴を脱ぐ音。
上着を椅子にかける音。
静かな生活音が、ゆっくり部屋に戻ってくる。
ユキナはこたつの布団を少し持ち上げる。
「こっち、あったかいよ」
特別なことは何も起きない。
ただ、隣に座る場所がある。
それだけで、この六畳は、今日もちゃんと冬だった。